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最高裁判所第一小法廷 昭和22年(れ)98号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人堀場直一の上告趣意第一點は「第一點の上告理由は上告人木村廣光同三井馨巨の両人に關するもので一、先づ原判決を見ると證據上の理由として其最後に「第四の事実は被告人木村廣光及び三井馨巨が短期間内に同種の犯行を繰返したことによって之を認める」と書いてあります而し一個の法益に對する連續犯ならば格別本件の樣に罪名を異にした數個の行爲で而も被害法益の違った連續關係のない行爲と觀るべき場合原判決摘示第一、第二、第三の盜罪を累行した事が認められると言ふ事だけの理由で原判決摘示第四の盜罪も右被告人等の所爲であると認定する事は早計にして而も実驗の法則に反する即ち右の樣に單なる推定だけで事実を認定する事は行爲者でない者を犯人として認定する事なしとは言ひ難いからである二、されば原判決が此他人の所業であるかも知れない原判決摘示第四の事実を推定だけで認定した事は刑事訴訟法第三百六十條の要求する「證據により認めたる理由を説明する事を要する旨」の條件を充たした判決とは申し難く結局原判決は其理由を附せざるか立證の推理を誤りたるものとして破毀を免れない」というにある。

しかし、原審が、所論第四の事実を認定したのは、被告人木村廣光及び三井馨巨の原審公判廷における判示同趣旨の供述に基ずいたものであって、所論の如く、同人等が短期間内に同種の犯行を繰返したことによって、これを推認したものでないことは明白である。論旨は原判旨を正解せず判旨に副はない事実に立脚して原判決を非難するものであるから、上告の理由はない。

同第二點は「一、原判決摘示の事実第二は被告人北井政數關係で又原判決摘示の事実第三は被告人高岩光一關係でありますが先づ摘示の事実第二の記載を讀んで見ると其趣旨、關係被告人等五人が行ひたる具體的犯罪事実は各被告共同一程度の罪を歸すべき(罪名は勿論情状共に)行爲を爲したもので共犯者間に程度其他何等の區別を設くべきものではないと判讀理解する外はない。此事は原判決摘示第三の被告人高岩光一關係の犯罪事実に就ても同樣な事を言ひ得る二、そこで原判決に示された法律の適用を見ると共犯者の内被告人北井(第二の事実)同高岩(第三の事実)の両人に對し酌量減輕が爲されてある是に依って見ても又後に記載する樣に判決に引用された證據によって見ても各關係被告人等が爲したる犯罪行爲は同一價値同一程度のものでなかった事の断定が出來る此被告人北井、同高岩の加功程度は他の者と同樣強盜として認定せられる事が同一である場合でも具體的犯罪事実に異同がある以上刑の量定に干係する許りでなく他の罪名に値ひするかも知れない原判決が法律の適用に於て減輕を爲し他の被告人等と全く同一事実關係でない事を示した場合に於ては事実上の理由に於ても他の被告人等と異りたる犯罪を指摘して記載せらるべきでこれを怠った原判決は理由を附けないか又は理由に齟齬あるものとして破毀せらるべきものである三、尚原判決の引用する證據を調べて見ると被告人北井に就き五人の共同者中他の者が暴行脅迫を行ったか否かは別として少く共北井が強盜の要件を具備する暴行脅迫を行ったことを觀取し得る明白な證據は何もなく殊に石井弥平に對する司法警察官の聽取書記載によっては北井が共同加功した程度は勿論共同加功したかどうかも明確でなく又河合五一の第二回豫審調書では北井の共同加功が認められるも果して其行爲は窃盜か恐喝か強盜であるか明確ではない被告人高岩に就き被告人高岩に就ても右同樣で即ち三人の共犯者中高岩が他の共同者と同樣強盜の要件を充たす暴行脅迫を行った事実を觀取し得る明な證據は見當らない却て此被告人に對する第二回の豫審調書及び被告人三井の第二回豫時調書によると共同した他の關係被告と同一程度の暴行脅迫を働いたものでない事が明である四、以上により原判決摘示の第二、第三の各事実に夫々加功した被告人北井同高岩の行爲が他の共同者と同一價値でなかったことは原判決の引用した證據の上でも明であるに不拘各共同者を以て同價値の行爲だと断定した原判決は摘示認定事実の樣な證據がないのに不拘事実を認定したもので認定事実と證據との間に齟齬あるか過大に事実を認定した事になる結局此點でも理由不備として破毀さるべきものである五、上告理由第二點はこれを要するに原判決が法律の適用として示した事柄を判示事実の上に示さなかった事は判決に理由を附けなかったか又は理由に齟齬あるかどちらかであると言ふ事と今一つは判決に引用した證據では判決摘示の事実が出て來ないから證據理由と摘示事実との間に齟齬があると言ふのであります」というにある。

しかし、原審が、被告人北井は相被告人木村廣光外三名と共謀して、判示第二の犯行を、又被告人高岩は、相被告人木村廣光及び三井馨巨と共謀して判示第三の犯行を、それぞれ敢行したものであるとの事実を認定したことは明かであって、しかも該事実認定は、原判決擧示の證據に照らし、これを肯認するに十分である。凡そ共同正犯者が共同正犯者として所罰せられる所以のものは、共犯者が、共同意思の下に一體となって、互に他人の行為を利用して自己の意思を実行に移す點にあるのであるから、苟も判文上共謀の事実を明確にさえすれば、共犯者の何人が実行行爲の際、その如何なる部分を分擔したかは、これを特に明示しなくとも、罪となるべき事実の判示として、間然するところはない。又犯罪の情状に關する事実は、量刑上重大な意義を有するものであること勿論であるが、いわゆる罪となるべき事実に該當しないのであるから、唯量刑に際してこれを斟酌すれば事足るのであり判文上これを明示する必要はない。從って原審が、その判示の冒頭において共謀の事実を明示した以上、被告人北井が判示第二の犯行の際、又被告人高井が判示第三の犯行の際、それぞれ実行の如何なる部分を分擔したかを説示せず、又その他犯情の點に關し何等明示するところなく、右被告人両名に對し、犯情に鑑み酌量減輕を爲したからというて、原判決に所論の如き違法ありとなすことを得ない。本論旨も理由がない。

よって、刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)

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